『昼と夜は真逆の顔』

 

「池野君、ちょっと、来たまえ」
よく通る声がオフイスの中に響き渡った。
「ねえー、またよ」
「ホント、渋沢部長ったら、何かと池野さんに当たるのよね!」
「でも、意外と二人はデキてたりして、フフフ」
「ええっ?、ううん、ナイナイ。だってもう彼女間もなく三十路でしょ」
池野真由美が渋沢の席へ歩んでいくのを見ながら、オフイス雀の密やかな会話が交わされていく。

「これはねー、こういうことじゃあ困るんだよ。ベテランの君がこんなことでどうするんだ」
部屋の中央にある渋沢の机の前で、真由美は立ったまま渋沢に叱られていた。
「はい、申し訳ありません。以後注意します」
「でも、君。注意するのは、今月これで二回目だぞ。少し注意力が散漫なんじゃないのか」
「はい。申し訳ありません」
「このままじゃあ、君に任せておけなくなるかもしれないな。そのつもりでいたまえ」
「…はい。わかりました」
「もう、いいよ」
「失礼します」
周りの社員は二人の会話を聞いていないような振りをして仕事をしていたが、二人の会話が途切れると一瞬シーンとなった。
そして身長百六十cmの真由美の、その部屋を出ていくヒールの靴音だけが響いていた。
「おい、さすがの池野女史もこれだけ言われると…」
「そうだな、普通のOLなら泣き出しているんじゃないか」
今度は若手の男性社員の間でささやき声が起こっていた。

 

「遅いじゃないの!」
「すみません、会議が長引いてしまいまして・・・」
「なによ、いい訳するんじゃないよ」
渋沢は週末の定例会議が延長してしまい、このマンションに来るのに、約束の時間から一時間も遅れてしまっていた。
そして部屋に入ると開口一番、待っていた女性に強烈な言葉を浴びせられた。
「はい、お許し下さい、女王様」
渋沢は、背広姿のままで床に這いつくばった。
「ほら、いつまでもそんな格好でいるんじゃないよ。まったくおまえはむさ苦しいんだから」
「はっ、はい。申し訳ありません!」
渋沢は慌てて起き上がると、隣の部屋に消えた。

その女性は、目にはまるで仮面舞踏会で着けるようなマスクをつけ、黒いエナメル皮に包まれた乳房は、その膨らみの大半をあふれさせていた。
そして太腿からスラリとした足先にかけては、これまたエナメル皮のビキニパンティと網タイツが、ピッチリと肌にはりついていた。

「お待たせしました。女王様」
その声と共に隣の部屋から出て来た男は、頭から黒いマスクをスッポリ被り、後は黒いピッチリしたTバックのようなヒモパンツを履いているだけだった。
がっちりとした筋肉質の肌とそのスタイルは、これで斧でも持たせると、まるで中世の死刑執行人のようだ。

「まったく・・。遅いんだよ。お前は、こんなに私を待たせていいと思っているのかい」
「お許し下さい。女王様」
「いいや、だめだ。やっぱりお前を躾るにはお仕置きしかないね」
「えっ、それは」
「それはって、何んなんだい?」
「いえっ、あのー私が悪うございました。お仕置きをお願いします」
「始めからそう素直になりゃいいのさ。さあて今日は何にするかなー」
その板の間の部屋の壁には、ドッシリとした木目の洋服タンスが置いてあった。
そして女が扉を開けると、そこには衣類の代わりに数種類の鞭と、鎖、ローソク等それこそSMショップで見かけそうな物で一杯だった。

「ああ、それは」
女が九尾のムチと二股の鞭を見比べていたが、やがて不要な鞭をしまうと男は声を出した。
「ふふ、今日は昼間の分のお返しを含めて、タップリお仕置きをしてあげようね。どうしたの、お仕置きの姿勢は」
「あっ、はい」
渋沢は正座の姿勢から、四つん這いになって女の鞭を待った。
「さあ、いくよ。覚悟おし」
女は、二股の鞭を後ろに引くと、力を込めて男の尻に振り下ろした。
『ピシーッ、パシーッ』
という音が部屋中に鳴り響く。
「うぐっ、ううっ。」
鞭が通った跡の男の肌は、そこだけ赤い筋ができていた。

「仰向けになりなさい!」
男の尻の肉に感覚がなくなる頃、女は汗をかきながら言った。
「さあ、お舐め」
女はその長くて細い脚を伸ばすと、仰向けになった男の口元にその尖ったようなヒールの先を当てた。
「ほら、もっとていねいに舐めろっての」
黒いヒールの先を渋沢の舌が這っていく。
「お前は相変わらず舐めるの下手だね」

そこへ赤い太目のローソクのしずくが、降り注がれていく。
「うっ、熱っ。お、おゆるし、お許し下さい女王様」
「フフ、いい気味だ。そーら、ここはどうだい」
脚に垂らされていたローソクが、黒いパンツとややでてきた腹を直撃する。
「うおっ。熱っつ」
「熱いかい、そうかい」
そう言いながら、女はさらにもう一本、今度はオレンジ色のローソクも増やして、両手を使って責めるのだった。
「お待ち。図々しいね、それはまだだめ」
それでも男はローソクだらけの体を伸ばして、足先から太腿へ舌を這わせようとする。
「ええい、離れるんだよ」
女は、脚にからみつく男の体を振り払うと、先程の鞭を取り出し、今度は仰向けの腹と胸をめがけて振り下ろした。
男の肌を打つこの音が、女にとっては快感をもたらしてくれる。

 

やがて男がグッタリした状態になると、女はその顔を跨ぐようにして口をふさいだ。
「むがっ、うふう」
「さあ、お待ちかねのいいものやろうかね」
女の声より先に男の唇と舌が、黒いエナメル皮の周りの肌を貪っていく。
「ううっ、ほんと、お前はここを舐める時だけは上手だね。ああっ」
男の舌は、皮と肌の隙間に侵入する別の生き物のように巧みに動き回っていく。

女はそうされながら、自分で自分の八十五cmの乳房の膨らみを強く揉んでいた。
そして自分から男の舌の動きに腰を振っていく。
「ああああー、いいー」
たまらず女は精一杯声を張り上げてしまった。
「ハア、ハア、よし、じゃあ今日の御褒美を上げようかね」
「ハア、ハア、ハア、うっ、嬉しいです、女王様。頂きます」
女は一旦背を男の端に向けると、男のパンツの端についているヒモを引いた。
すると男のパンツが解けるなり、中からカチンカチンのペニスが立ち上がった。

「今日は、坊やが元気だねー」
女はそう言いながら、今度は自分の腰のパンティをサッと外すと、男の口の前に、黒々とした陰毛がグチョグチョの愛液ではりついている股間の三角地帯を広げて目を閉じた。
やがて最初のひとしずくが垂れたかと思うと、堰を切ったかのようにワレメからゴールデンシャワーが噴出した。
「あぐぁ、ゴボゴボッ」
「ほら、もっと口をお開け。…こぼすんじゃないよ」
女の聖水を口で受けながら、男は手で自分の一物をしごき、やがて天井目掛けて白い樹液を吐き出したのだった。

やがて静かに女が立ち上がると、その顔のマスクを外した。
すると、なんとそこには、昼間のオフイスで渋沢が散々叱り飛ばした、池野真由美の顔があった。
その顔は満面の笑顔をたたえ、そして何事もなかったようにバスルームに消えた。
続いて渋沢も起き上がると、バスルームに消えていった。
「いやん・・・」
「フフフ・・・」
バスルームからは楽しそうな笑い声が聞こえていた。
しばらくして身支度が終った二人が、改めて顔を合わせると、真由美が先に聞いた。
「あの、奥様のおかげんはいかがです」
「うん、相変わらずさ。…じゃあ、君が先に出なさい。今度はまた来月かな」
「はい。それじゃあ、いい週末を」
そしてその部屋の中には誰もいなくなった。

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